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[論点]防災の鍵握る活断層公表読売新聞,1996年 9月4日(投稿)

 阪神大震災を契機に注目が集まっている活断層について,「それがどこにあるか」という最も気になる情報が公開されつつある。今回の情報公開にはどういう意味があって,また,その情報をどう受けとめるべきなのだろうか。

 建設省国土地理院は9月中にも,都市周辺地域の活断層分布図「都市圏活断層図」を製作し,市販を始める。2万5千分の1の地図上に活断層の位置を示したもので,数十メートル程度の誤差で活断層の位置がわかる。第一線の活断層研究者が改めて詳細に検討し直した結果に基づいており,現状においては最も信頼度の高いものであることは間違いない。

 しかし,活断層の存在をすべて掘って確認したわけではなく,推定の部分があることも否めない。また,活断層対策の方向付けも未完成の状況の中で,公開することには賛否両論あった。しかし,新聞報道にも見られる「大阪では九三%が公開を支持」といった世論の追い風を受けて,情報公開の原則にのっとることとなった。

 そもそも,情報公開とは何だろうか。それは,単に国民の知る権利を守ると言うことではなく,情報を受ける側に判断が任されるということであり,活断層があるという情報が,「だからどうなのか,どうすればいいのか」の結論抜きに提供されると言うことでもある。もちろん行政側には,情報公開したことで肩の荷を降ろされてはたまらない。情報が正しいかどうかのチェックはもちろんのこと,「活断層にどう対応すればいいのか」の合意形成ができるよう下地を整備してもらわなくてはならない。

 情報を受ける側はもっと大変である。否応なしに「活断層対策」の議論の主役にされてしまう。マニュアルがないままに,この情報を受け入れなくてはならない,という大変な事態になる。

 議論の前提となる活断層についての知識が,十分普及しているかどうかについても疑問がある。「活断層があれば即,危険」といった誤解やデマに左右されて,地価が変動する可能性もある。変動を緩和するための方策も本来必要であるが,今のところ施されていない。そのため,情報を受け取る側の姿勢にすべて任されているといっても過言ではない。

 万が一活断層が動けば,活断層の真上の構造物は断層変位による直接的な被害を免れることは難しい。その意味で,活断層情報は重く受け止めなくてはならない。しかし,一方で,そのような地震の再来周期は非常に長いため,地震発生は稀であり,東海地震などのようなプレート境界で起きる地震や,台風や集中豪雨による水害や地盤災害等に比べても,発生頻度が著しく低いというのも事実である。

 「活断層がどこにあるか」は,活断層を調査するにしても,警戒するにしても,また対策を議論するにしても,まず最初に必要不可欠な情報であり,これを公開しないことには何も始まらないという判断が,今回の情報公開の背景にある。活断層の詳細な位置が公表されることで,地域全域の災害予測や,活断層の位置を考慮に入れた都市や地域の設計が初めて可能になる。

 それでも,活断層沿いの住民にとっては,甚だうっとうしい情報と受け取られるかもしれない。しかし,そのような人にとってこそ,この情報が有意義なものであることも事実だ。それは,この情報によって改めて防災意識を高め,活断層と災害予測に関する調査を行政に求めることが可能になるからであり,また,適正な耐震住宅化などにより,自らの生活をより安全なものにすることも可能になるからである。

 「最も深刻な被害の発生源に対策を施す」ことが公共の利益にも通じるということは,火災の場合を考えても明らかである。その意味から,活断層調査結果に基づく活断層近傍の家屋の耐震構造化や,さらに場合によっては活断層上から他地域への移転については,当事者の意向を汲みつつ,経費負担を含めて社会全体で取り組むべき問題である。

 活断層を多く抱える日本では,なんとか活断層と共存する方策を考え出さなくてはならない。今回の情報公開に際して,「活断層があれば危険」と性急に決めつけるのは正しい判断ではなく,地価を左右するような過剰な反応も,是非,避けなければならない。そのような事態になって,活断層沿いの住民に著しい不利益を押しつけてしまうと,これ以上の活断層情報の公開は困難になり,対策自体が頓挫してしまう。

 行政には,地価の変動を厳重にチェックし,もし万が一そのような事態が生じた場合には,適正な措置を検討してほしい。場合によっては,活断層直上の一定範囲を国有地として買い上げることも検討すべきである。

 活断層とはなにか,これとどう共存するかを,市民レベルで考えられるようにするためにも,今回の情報公開の成否は重要な鍵を握っている。