新聞紙上での主張Newspaper

活断層沿い 対策怠るな 中日新聞2016年10月30日

 鳥取県中部の地震(マグニチュード6・6)で「未知の活断層」が強調されることは適切ではない。地表を切る明瞭な地震断層も現れず、最大震度は6弱だった。こうした地震は全国どこでも起きるとされ、活断層との関係を議論するまでもない。「未知」という謎めいたニュアンスを日本人は好むが、強調しすぎると無力感につながり、活断層対策そのものにも水を差しかねない。最大震度7の揺れや断層のずれによる被害は、熊本地震に見られるように既知の大規模な活断層によって起こるものであり、活断層へ備える重要性は揺るがない。

 熊本地震においては既知の活断層(布田川・日奈久断層)が最大二㍍ずれ、長さ三十㌔にわたって大地が裂け、地表に地震断層が出現した。断層の真上の家屋は激しく倒壊し、断層から数百メートルの範囲で大きな被害が生じた。震度7が気象庁により観測されたのは、地震計が断層近くに配置されていた益城町と西原村だけであるが、南阿蘇村では五台の自動車が揺れにより横転する前代未聞の現象が起きた。

 被災者の多くは「近くに活断層があることは知っていたのに、十分な備えをしなかった」と無念そうに語った。「寝耳に水」ではなかったことは、これまで二十年間にわたる地震防災対策の成果ではあるが、活断層沿いでどんな防災対策が必要なのか、指導されてこなかった。震度6弱程度までを念頭に「大きな揺れはどこでも起きる」と強調されたが、断層沿いでは震度7にもなりかねないことへの注意喚起が足らなかった。

 活断層は「めったに地震を起こさない」「風評被害」「すべてが事前に見つかるわけではない」とも言われてきた。こうした発言はもっともらしく聞こえるが、都市開発や原発再稼働に不都合なため、活断層へ国民の関心が向かないようにとの意図もあったのではないか。

 今後も我が国は、活断層と真摯に向き合わないままでいいのだろうか。個々の活断層が地震を起こす頻度は高くないが、全国には千本以上の活断層があり、およそ9年に一度の割合で五十人以上の死者を出している。今後も活断層が動けば惨事が繰り返され、死者が千人を超える被害も十分にあり得る。確認済みの大規模な活断層に関して対策を放棄したままでは行政の不作為として責任が生じる。

 一部の自治体は、活断層直上には公共施設を建設しないという条例を制定している。これに見ならい、活断層沿いの一定の範囲を「活断層防災推進地域」に指定して、事前に適切な防災対策を講じるべきである。その対象地域は国土面積の数パーセントにすぎない。