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[私の視点]高校の地理教育 だれもが学ぶ基礎科目に朝日新聞,2014年1月19日(投稿)

 世界や国土を知るうえで重要な地理教育がいま、危機的な状況に置かれている。

 高校の「地理歴史科」は世界史、日本史、地理の3科目からなるが、1989年の学習指導要領で世界史が必修、日本史と地理は選択科目になったため、地理を学ぶ生徒の割合が減り、現在は半数程度にとどまる。理科的な内容も含むため理系の生徒は大半が履修する一方、文系は大学受験のうえで不向きだと学校側が判断し、履修機会を与えないことも多い。

 しかも、安倍晋三首相が今年1月、国会答弁で高校での日本史の必修を検討していくと表明した。仮にそうなれば、地理を学ぶ機会を失いかねない。

 地理は単に地名を覚えるものではない。世界各地を観察し、人々の暮らしを知り、人と自然の関係や地域間のつながりを考える科目である。風土論や日本人論の基礎にもなる。多文化共生、地球環境、資源・エネルギー、国際関係、地域計画、地図情報など、現代的課題はすべて地理がかかわるテーマだ。気候変動や活断層研究も地理学者が支える。

 東日本大震災以降、重要性が高まる防災教育面での役割も大きい。地理を学ぶことは、災害予測の限界や社会に内在する様々な脆弱性を理解し、復興のあり方や災害に強い国土づくりを考えることに通じるからだ。ハザードマップから災害をイメージし、インターネットや地理情報システム(GIS)を活用して分析する。スキルも含めて幅広く学ぶ地理教育こそ、防災教育に欠かせない。

 地理を学ぶことの本質は何か。それは、地球上の自然や人間活動を広く俯瞰的に眺めることで、「大局的な地球観や世界観」をつかむことである。単なる国際理解ではなく、各地域の自然的・社会的風土を把握したり、国家群や大陸スケールの共通性と地域ごとの特異性とを考察したりすることで、それは可能になる。歴史性や蓋然性をも理解することで、真の国際感覚が身につくはずだ。

 このように世界を俯瞰的に眺める能力は、リーダーの資質としても欠かせない。長い目でみれば、地理教育の不足はグローバル化時代における国力の低下も招きかねない。

 もちろん歴史と地理は時間と空間を把握するための両輪であり、バランスが重要である。日本学術会議は、誰もが学ぶ高校の必修科目として、日本史と世界史を統合した「歴史基礎」と、グローバル化に対応する最低限の知識やスキルおよび考え方を習得させる「地理基礎」の新設を提言している。今こそ、その実現を図るべきだ。