活断層への対処 正しく畏れ、被害を最小に毎日新聞,2012年7月6日(投稿)
「臭いものに蓋」という発想は防災にとってマイナスである。東日本大震災は決して未知の地震ではなく、起こりえるという警鐘は鳴らされていたのに、政府や東電は経済効率を優先させて想定から外した。その結果、深刻な国難を招いた。
科学者は災害発生の嗅覚を磨き、警告する自信と使命感を持たなくてはならない。が、実際は研究至上主義や社会の流れに迎合する事なかれ主義に陥りやすい。こうした構造を改めなければ、真の「安全安心」社会は構築できない。
活断層は「臭いもの」の代表だ。多くの原発やその関連施設は、若狭湾や下北半島などの活断層集中地帯に立地させてしまったため深刻な問題を抱える。敦賀原発のように、敷地内を活断層が通過し、派生する断層が原子炉直下に延びることすらある。学界ではずっと前から指摘されてきたが、電力会社と政府は否定し続け、原子炉の増設を繰り返し、最近になってやっと認めざるを得なくなった。
街だって危ない。95年の阪神・淡路大震災では、都市直下の活断層(六甲断層)が地震を起こし、6000人以上が死亡した。その約15年前は、研究者は六甲断層は「要注意断層」と指摘していたが、市民に知らされることはなかった。神戸市の防災計画においても震度5まで考慮すれば十分とされていた。大阪も京都も名古屋も、そもそも活断層の活動によって作られた平野に位置していて、いずれは活断層地震に見舞われる。次の南海トラフ地震の直前・直後に内陸の活断層も動きやすくなるという警告もある。
活断層は日本には2000本近くあり、その近傍200m以内に290万人が住んでいる。まず自分は対象地域内かどうかを知ることが必要で、もしそうなら家を頑丈に造らなくてはならない。断層の真上は地面が切れるためさらに問題が大きく、住まない方が良いことは明らかである。
活断層とうまく共存することは日本の宿命でもある。残念ながら被害をゼロにはできないため、何を守るべきか議論する必要がある。原発はもちろんのこと、不特定多数の人が利用する学校や病院などを活断層の直上に置くことは禁止すべきだ。鉄道などの長大な線状構造物は活断層とクロスしてもやむを得ないが、被害を最小限にとどめる工夫が求められる。
活断層は日ごろ、何も悪さをしないし、むしろ平野を作るなどの恩恵ももたらしている。活断層を正しく畏れ、後悔を極力減らす努力が大事ということに尽きる。