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[識者評論]「大飯原発再稼働へ」耐震性評価は不十分共同通信,2012年6月9日(依頼)

 東日本大震災後の東京電力福島第1原発事故は、自然の脅威を過小評価して、安全性より経済性を優先したことにより起きた人災の側面が大きい。大飯原発再稼働の是非もその反省に立って見直す必要があり、政府は耐震安全性に関する説明を尽くし、判断の合理性と中立性を保証すべきである。

 原発近くの活断層の存在は議論の焦点であり、多くの原発で「見落とし」が指摘されている。2006年の耐震指針改定時にも問題になり、従来は活断層がある確実な証拠がなければ無視してきたが、今後は可能性が否定できないグレーの場合も考慮せよとされた。08年には活断層審査の「手引き」を原子力安全委員会が作成したが、なかなか徹底されない。

 その後、敦賀原発の敷地内を活断層が通過することが判明し、派生する断層が原子炉の真下にもあるという深刻な状況も指摘され始めた。

 大飯原発については、敦賀原発とはややレベルが違うが、設置許可申請書等の公開資料を見る限り、海域にある長大な海底活断層と陸上の活断層との連続性、原発近くの活断層の存否、敷地中央を横切る破砕帯の性状などに関して、疑義を挟む余地があり、説明が尽くされているとは言いがたい。

 これまで、活断層は地震の揺れの原因としてのみ考慮されてきた。長い活断層が一つあればそのために設計強度を高めるので、短い活断層が近傍にあるか否かは重要視されなかった。

 しかし、敦賀のように直近に活断層があれば、派生する断層が一緒にずれて原子炉建屋を破壊する危険性も無視できなくなる。大飯原発も若狭湾の活断層密集地帯に位置しており、福島事故後の慎重な目で破砕帯の再調査が急務である。

 安全判断の手続き上、最大の問題は、調査を全て電力会社に委ね、政府が責任を負わない点にある。活断層調査は、調査計画そのものが成否を決める。地形の成り立ちから活断層の存在を判断する変動地形学的手法が一般的であるが、原発の場合は地質学的手法により追認されたものだけを重視する。後者の手法の有効性は高いものの、調査位置が数メートルずれただけで誤った結論を招く恐れもある。

 積極的に活断層を見つけようというスタンスと、適切な調査設計がなければ正確な判断はできない。活断層を否定する結論のために準備された資料からだけでは、十分な検証は難しい。近年は多くの審査委員が疑義を挟むようになったが、自前で調査できないため再調査を命ずるだけとなり、問題解決が遅れる。

 福島の教訓を生かすタイミングは今しかない。事業者に調査を任せて、責任の曖昧な審議会に判断を委ねるのではなく、今後は原子力規制庁に専従の調査官を配置して、政府の責任で調査を行い、安全性に関する国民への説明を行うべきである。必要最小限の追加調査を行いつつ、全原発周辺の活断層見落としの有無を短期間で確認することは難しくない。原発耐震指針と「手引き」を順守して、安全最優先の立場で判断を下せば良い。

 政府が重責を担って初めて中立性・合理性が確保される。こうした本質的な改革をせず、多くの不信感を抱えたまま大飯原発を再稼働すれば将来に禍根を残してしまう。