[私の視点]原子力安全庁 安全確認の一元化を朝日新聞,2011年9月11日(投稿)
原子力安全庁(仮称) が環境省の外局として新設される。同庁に要求されるのは、単に「中立性」や「独立性」だけではない。各原発の潜在的な危険性を自ら把握し、国民に対して安全を保障する「責任の一元化」が必要だ。そのためには、これまで電力会社に押しつけてきた、地震や津波に関する調査と評価を自ら担う体制を整備すべきである。
従来の原発は、よりによって活断層集中地帯に造られるなど問題が多い。立地場所が決まってから活断層調査を行うため、活断層の存在を否定しがちになり、後で見つかって耐震性が疑われるなどの混乱を招いている。国は活断層直上には建てないと公言してきたにもかかわらず、2008 年の首相の国会答弁ではついに、「原子炉施設が活断層の上にあることのみをもって不適合となるものではない」と言うありさまだった。
福島第一原発は想定を超える地震と津波により大きな被害を受けた。活断層の問題と根は同じであり、「極めてまれではあるが発生する可能性がある地震や津波によっても、施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと」という耐震設計審査指針が守られていない現状を露呈した。他の原発の安全性についても疑念が持たれても仕方ない。
電力会社には活断層や地震の専門家はいない。活断層を探す調査において、肝心な場所のデータが不足し、審査の過程でやり直しが命じられることもある。当然のことながら、厄介な活断層を積極的に見つける姿勢にはならない。
同指針では、約13万年前以降の活動が「否定できないもの」は耐震設計上考慮せよとされている。学界などで活断層の存在が新たに指摘されたら、安易に否定せず迅速な対応が求められる。しかし多くの場合、存否に関する調査と審議が延々と続き、結論が先延ばしされる。危険性は放置され、膨大な調査費は全て国民負担となる。
福島第一原発でも、09年の国の審査で大津波対策の必要性が指摘されたにもかかわらず、対策が遅れて大事故を招いた。迅速な対応を可能にするためには、事務局に専門的判断能力が必要である。責任が曖昧な審議会に依存していては、強い規制力など持てない。
今後は、地震・津波に関する調査計画から評価までを、広く社会や学界にも妥当性を問いつつ、国が一元的に行うべきである。これにより危険性の把握と安全対策の迅速化が初めて可能になる。高い専門性を有する職員を配置し、原子力安全庁が安全確認の全責任を担わない限り、国民の信頼は回復しない。