[識者評論]防災情報 見直し必要共同通信,2008年6月15日(依頼)
今回の岩手・宮城内陸地震は、北上低地西縁断層帯と呼ばれる活断層の一部もしくはその延長部が起こした可能性がある。北上低地西縁断層帯は国の地震調査研究推進本部が指定した、全国約百十の主要活断層のうちの一つである。これまでに公表されていた地震の長期予測によれば「この断層帯ではマグニチュード(M)7・8の地震が起こり、その確率は今後三十年間にほぼゼロ」とされてきた。なぜ、地震発生確率がほぼゼロなのに地震が起きたのか?
その理由は二つある。第一の理由は、地震発生を約一万年に一度と見積もっていることにある。それほど頻度の低い稀な地震が、今後三十年以内に起こるかどうかを予測することは困難を極め、現状の予測技術では原理的に1%以上の数字では言えない。このため確率の数字は「ゼロ」に近くなってしまう。
第二の理由は、北上低地西縁断層帯の全域約六十㌔が同時に活動するほどの大地震だけしか予測していなかったためであり、その結果、今回の地震の十倍近いエネルギーを持つM7・8の地震が一万年に一度しか起きないという推定につながった。「それよりもやや小規模な地震ならもっと頻繁に起こっても不思議はない」という議論があり、そうした確率を計算することの重要性も指摘されていたが、間に合わなかった。
もしも、「ほぼゼロ」という情報が地震防災に水を差していたとしたら、私も長期予測の作業に関わった者のひとりとして責任を感じる。国の評価も早急に改めなければならない。この活断層に限らず、一般に活断層が起こす地震の発生確率は小さな数字になるため、「危険ではない」と誤解されやすく、注意しなくてはいけない。
ところで、日本は世界でも有数の地震国であり、「地震は日本中どこでも起きる」として、日本列島に住むすべての人に、地震への備えが求められている。しかし、大地震は「起こるべき場所に起こる」ということを重く受け止めることも大切である。
震度6強や震度7になり得る場所はどこか? 活断層沿いはまさにこれに当たることが多い。活断層の直上ではどんなに強固な建造物も倒壊を免れることはできないし、活断層に近い山間部では大規模な山崩れが起きる。
活断層が大地震を起こしたら、どんな災害が起こるか? 最近は多くの自治体がその検討結果を公表している。こうした資料を参考に、被害を軽減する工夫を住民も一緒に考えることが大切だ。学校や病院等の公共建築物が、活断層の上にないかどうか確認することや、地震に弱い地盤の場所を知ることも重要である。
また、活断層沿いでは小規模な地震も他の地域より多く、そもそも地震が起きやすい。このことを忘れず、活断層が近くにあるにも関わらず、家具固定や家屋の耐震化を怠る、などということがあってはならない。
歴史を紐解くと、活断層は約十年に一度程度、日本のどこかで五十人以上が亡くなるほどの大地震を起こしている。こうした大地震は予め予測された場所に起き、今回の地震も例外ではない。まずは活断層がどこを通っているかについて、具体的に確認したい。
「活断層は滅多に地震なんか起こさないから…」と、油断していては何も始まらない。