新聞紙上での主張 - その他のリスト Newspaper

活断層危険度は調査できる 中日新聞,1995年 1月20日(投稿)

 活断層が引き起こした兵庫県南部地震で甚大が被害が生じたことで,日本中が心を痛めている.活断層に関するこれまでの研究が防災に活かされなかったことで痛切に哀惜の念を感じている活断層研究者は多い.

 活断層による内陸直下型地震は予知ができず,突然やってくるため,お手上げであるというのは間違いである.活断層地震に対する有効な対策はいろいろとある.これまではそれに対する社会的なニーズが低かったために実現していなかっただけである.戦後約50年間,好運なことに日本は直下型地震に見舞われずに済んだが,その危険性はかねてから指摘されていた.今回の地震でその危険性が現実となった今こそ,活断層に正面から取り組み,対策を真剣に議論すべきである.

 活断層がどこにあるかということについてはすでに10年以上前からわかっている.誰の家の下を通っているかも専門家は知っている.それなのになぜ災害対策が立てられないままになっているのであろうか.それはひとえに,活断層がいつ動いて地震を起こすかが予知できないためである.

 日本列島の活断層は個々に固有の活動周期を持っており,その周期は一般に約千年から三千年程度である.この周期の長さは人間のライフタイムをはるかに超えている.「そんな千年以上も先のことを真剣に考えて対策をたてる余裕はない.」といった意見がよく聞かれる.しかし果たしてそうだろうか.確かに周期は長いけれども,地震は「明日」かも知れないのである.

 「次にいつ断層が動くか」はわからないけれども,今後数百年間は安全な活断層か,危険な活断層かを判断することはできる.断層が沖積層(新しい時代の地層)を切っている場所で,深さ3~5m程度の溝を掘って地層の年代と乱れ具合を調べる.最後にいつその活断層が地震が起こしたか,周期はどれくらいかを明らかにする.このトレンチ調査と呼ばれる方法で,地震の切迫具合がわかるのである.サンアンドレアス断層を抱えるアメリカカリフォルニア州では,断層通過地点付近を開発するときにはこのような調査を行うことが法律によって義務づけられている.

 トレンチ調査はこれまでに,約1500以上ある日本の活断層のうちの約30に対して延べ60回程度行われているのみである.とくに,六甲断層のように都市域に位置する,防災上重要な断層ほどトレンチ調査は実施されていない.それは,調査に強制力や社会的な要請のない現状においては,調査を実施できる空き地が確保できないためである.調査の重要性が社会的に認知され,ニーズが高まれば,この問題の解決は困難ではないはずである.活断層を調査できる人の数もニーズとともに増加し,十分な検討ができるようになるだろう.

 カリフォルニア州で法律によって活断層調査が義務づけられている背景には,サンアンドレアス断層が数十~百年程度の周期で動くために,活断層問題が決して避けて通れないという事情があった.これに対し日本の活断層は周期が一桁以上違うので,その必要はないという意見もあるが,活断層が引き起こす地震に対してやればできる対策はいくつもあるということは事実である.トレンチ調査のような基本的な調査から,都市計画・設計・建設に至るまで枚挙にいとまがない.

 今こそ,これまでのような活断層をみて見ぬふりをするのはやめて,真剣に対策を議論すべきである.まず手始めに住民ひとりひとりが,「居住地近くの活断層の危険性を調べてほしい」という切実な要求を,地方自治体や国に対して提出してほしい.今こそその時である.兵庫県南部地震の犠牲者に報いるためにも,ぜひ他山の石としたいものである.